ミルトン・エリクソンとは

オーダーメイド催眠

 

治療に抵抗するクライアントなどいない、柔軟性にかけるセラピストがいるだけだ

ミルトン・エリクソンの有名な言葉です。

 

エリクソンは催眠療法家として有名な、精神科医であり心理学者でもあった人です。
彼は、大学時代に、のべ2000人以上に、催眠実験を行ったと言われています。

彼の催眠技法は非常に広汎かつ独特なもので、説明するのがとても困難で、そして独習が難しいといわれています。

それは、彼の催眠は言語だけではなく、相手を深く観察した中で、声のトーン、話しかける位置、話をする速度などを誘導の中で使い分け
また相手の催眠中の反応を丁寧に拾って利用していくという
スクリプト(暗示文・原稿)を使わないもので、非常に多くの技術を駆使したものだったからです。
相手の状態や反応を拾って誘導をしていくのですから、最初から決められたスクリプトなど使いようがない、ということでもあります。

古典催眠のように、決まったスクリプトが膨大にあり、それを世界中でシェアしながら世界中のセラピストが使っている、という
あるいみ既製服を選んでクライアントに着せるようなことをせず
ひとりひとりのクライアント、そしてその時その時のクライアントの状況や状態に合わせて誘導していくという
いわばオーダーメイド、しかも高度な高級プレタポルテのようなそれはまさに熟達の職人技であり
かつ催眠特有の非日常的な違和感や、たまに見かけるショー催眠のような何か支配されるようなおそろしさは一切ありません。

一度でも経験されるとわかるのですが、エリクソン催眠は、多くの人が持っている催眠というものに対するイメージを、大きく覆すものだったりします。

エリラボでも、受講して初めて本物のエリクソン催眠を体験された方の中に
なんてエレガントなんだ!
と感嘆の声をあげられる方は多くいらっしゃいます。

催眠はコミュニケーションのひとつ

確かにエリクソンは、彼のセラピーの初期には、催眠療法をメインとしたセラピーを行っていたのですが
じょじょに、その技法を、いわゆる「催眠」と呼ばれるものの枠から広げていきました

エリクソンの根本にある考え方は、催眠はコミュニケーションの1つだというものだったのです。

エリクソンは催眠療法家として最も有名ですが、実は彼の生涯においては、いわゆる「催眠」という形でセラピーを行ったものは、3割ほどだったといわれています。

彼は、 一見、ただ普通のお話しをしているだけにしか見えない中で、たくさんの彼の催眠誘導と同じテクニックを使い、クライアント本人ですら気付かないうちに、変化させていきます。

催眠誘導と普通の会話の境を曖昧にし、自由に催眠とそれとの間を行ききして、クライアントをよりよい方向へ導いていったのです。

現在のコーチングやカウンセリング技法の源流

エリクソンのこのクライアントへの働きかけ方・治療戦略はエリクソニアンアプローチと呼ばれ、今日の色々な心理療法の流派の源流となっています。

・ヘイリー、マダネスの、ストラテジックモデル
・ド・シェイザー、インスー・キム・バーグらによる、解決志向アプローチ(Solution Focused Approach)
・リチャード・バンドラーとジョン・グリンダーによる、神経言語プログラミング(NLP)
・ジェイ・ヘイリー、グレゴリー・ベイトソン、ジョン・ウィークランドらによる、短期療法や家族療法(MRI)
などなど・・。

挙げだすときりがないほどで、すべてエリクソンの技法の研究にその源流があります。

また、ジェイ・ヘイリーは、当時、エリクソン以外に相談できる人物はいなかったと、回想しています。

ほかにはその技法について誰にも相談できない・知らない・わからない、それくらい、当時の心理療法の場において、エリクソンのやっていたことは独特なものだったのです。

ですが、クライアントそれぞれの個性をとても大切にし、クライエントごとに異なるアプローチをすべきという信念を持っていたエリクソンは、自らは技法の体系化を好みませんでした。

自らが言語化せず体系化しなかった、このことがまた、エリクソンの技法が難解であると言われる原因のひとつでもあります。

にもかかわらず、エリクソンの治療がいかに優れていたものであったかは彼の弟子達や、のちの多くの、本当に多くの
学者や心理療法家達が、彼のやっていたことを研究していることからもわかるでしょう。

金槌をもつ人にはすべてが釘にみえる

これは私の考えですが
エリクソンは言語化し体系化してしまうことで
弟子や彼をまねる人たちが
クライアントごとに異なるアプローチをしなくなり
いわばオーダーメイドともいうべきセッションができなくなることを憂慮し忌避した

だからとにかく体系化をすることを忌避していたのではないか?と考えています。

エリクソンの逸話のひとつに、エリクソン本人が
「最近私の真似をして、何でもかんでもパラドキシカルなアプローチをすればいいとでも思っているかのような人をたくさん見かける、困ったものだ」
と憤慨しながら言っていたというものがあります。

またエリクソンが弟子たちを戒めるためによく語っていたメタファーのひとつに
金槌を持つ人には全てが釘に見える
というものがあります。
(ただこれは、エリクソンのオリジナルではなく、欲求5段階説で有名なアブラハム・マズローの言葉だといわれていますが
実はゴータマ釈尊も言ってたんですよねぇ)

本当はドライバーが必要なネジなどに対しても、金槌で叩けば何とかなる、簡単だと思ってしまう。
自分の手元にある手段に固執してしまうと問題を俯瞰して正しく捉えることができなくなるという、よくある状況を戒めるものですね。

そのでっぱりは釘なのかネジなのか、あるいはただ黒っぽい木のでっぱりなのか、さらにはもっと違うなにかなのか、それをよく確かめ
その上で、そのでっぱりの場所や状態も鑑みた上で、金槌を使うのかドライバーを使うのか、はたまた何かもっと違うものを使うのか
また、場合によっては、そのでっぱりは軽くやすりをかけて、小さくしておく程度にとどめておくほうがいいとか。

よく見極めないことには、かえって金槌を振り下ろしたせいで壊してしまうことすらあるかもしれませんから。

全ての人はユニークな存在である

催眠家の世界では、特にエリクソン催眠を理解し、使っている人のことを、一般的には「エリクソニアン」と呼んでいます。

けれど、私は、エリクソン催眠誘導ができるからエリクソニアンである、とは考えていません。

全てのクライアントが、一人ひとりユニークで個性的な存在で
それぞれに合致した、これまたユニークで個別の治療的処置が必要である。
そして、これはセラピストにも当てはまり、同様に一人ひとりが、ユニークな個性を持った存在である

という、エリクソンの言葉があります。
英語におけるユニーク(Unique)とは、他にはない、とか、唯一無二の、という意味です)

これはエリクソンの真髄をなす考え方で、そしてこのスピリッツを持った人こそ、エリクソニアンであると、私はそう考えています。

残念なことに、エリクソンの催眠テクニックのうわべだけを単純化・公式化したものを知り、それだけで、エリクソン催眠がわかった気になっている方がおられることも事実です。

エリクソンの催眠誘導技法のうわべを学んだだけでは、本物のエリクソン催眠や、エリクソンのやっていたことを理解することはできません。
彼の治療背景にある治療ロジックや、専門概念を理解する必要もあるからです。

そして何よりも、エリクソンのスピリッツを理解し、身につけない限り、エリクソンのやっていたような他者へのアプローチを身につけることは難しいのではないか、とも思っています。

エリラボでは、エリクソンの治療戦略を深く理解し、あらゆる個々人を個性的で特別な存在であると考える、エリクソンの考え方を身につけたエリクソニアンたるべく、研究・研鑽を重ねています。

また、そういうエリクソニアンを育て、広めていきたいと思っています。

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