今日のお話は、自分と相手は違う人間である以上、自分と同じではない
だから、望みということについても、相手の望みと相手の望みは違うんだという当たり前のことが
頭ではわかっていても、いざそれが善意や好意でコーティングされると忘れがちだよね、ってお話です。
よかれと思っても相手が望んでなかったら…
相手のためによかれと思ってやったことも、相手がそれをされること、およびそれをあなたにされること、を望んでいない場合
時にそれは、単なるありがた迷惑でしかないっていうのは、結構よくある話です。
結局、どんなに相手のためによかれと思っての善意であれ、それをしたいのはあなたの望みであって、相手の望みとは別なんですよね。
なかなかに悩ましい…
大人を大人として扱う
さてここからのお話は、まだ30代始めのころの話です。
私の友人にとても魅力的な女性がいます。
仮に今はA子さんとしておきます。
A子さんは、ある人の言を借りるなら「オカン」w
確かにその通り、とても親切な人でした。
ただ当時のA子さんには、その親切心の裏に常に他者への不安があるような
そんな印象を持っていたのを覚えています。
そんな彼女と一緒に、ある学会に行きました。
夜には、たまたまその学会で知り合った初対面の方数名を交えて、確か6人ほどで、夕飯に行きました。
その中に、今日のお話の登場人物である、20代後半の男性B夫さんがいました。
B夫さんは、イケメンといえないこともない整った顔立ちをしていて
B夫さんてA子さんのタイプなんじゃない?
なぁ~んて、こっそり心の中でそんな下世話なことを思ったものですw
ただB夫さん、初対面の人たちに囲まれての緊張なのか、なんだか自分の意見を人に言うのが苦手そうです。
時々笑ったりしきりに相槌を打ったりはするものの、ほとんど発言せず
自分に話を振られても、「そうですね」とか「どうなんでしょうかね」なんて返事ばかり。
なんだかB夫さんの緊張がこちらにも伝わってくるようでした。
そんなB夫さんに、A子さんは積極的に話しかけて
夕食後場所を移して飲みにいくときも、飲みに行った席でも、彼の隣に座り
なんだかんだと構い倒していました。
2次会も終わって、ホテルへと戻る道すがらA子さんは
「彼は素敵な人だから、もっと自分に自信をつけさせてあげたい」なんて言ってましたっけ。
*これは惚れたか~?なんて、やっぱり下世話なことを考えた私w
でもなぜそう思ったのかもう忘れてしまいましたけれど
私には、A子さんとB夫さんは、まるで二卵性双生児のように見えました。
明るく積極的にふるまって、時にはおせっかいと思えるような他者とのかかわり方をしていくA子さんは
何か言いたそうにしつつも黙るのを繰り返し、じっと自分を押し殺しているB夫さんの合わせ鏡のように見えたのです。
私は、A子さんにもB夫さんにも、否定されることへの強い不安のようなものを感じていました。
はた目にはB夫さんは、積極的に関わってくる、それなりに美人で魅力あふれるA子さんにまんざらでもなさそうで
楽しそうに見えたのですが…
数ヶ月した頃、すっかりそんな出来事も忘れていた私にB夫さんから連絡がありました。
あれからA子さんとB夫さんは、時々二人で会って食事をしたりしながらも
おつきあいとも何とも言えないような、微妙な関係が続いているとのことでした。
そして、そのA子さんとのことで、A子さんと仲のいい私に相談したいことがある、というのです。
私は、B夫さんに会って話を聞くまでは
A子さんは魅力的な女性だし、年齢もさほど離れていないし、もっと関係を進めたいという話かと思っていたのです。
ですが、実際は違っていました…
B夫さんの話は
彼女は、僕を導いてくれようとしてるんじゃないかって、そう思うんですよ。
でも、僕は誰かに導いてもらうんじゃなくって、自分で色々考えて
変えたいと思う部分は変えていく
それくらいの強さは持ってはいるつもりなんです。
彼女は、それなのに、口先では僕を誉めながら、僕を弱いものとして扱っている。
それが僕はたまらなく嫌です。
貴子さんからA子さんに、それとなく
僕にそういう風に接しないで欲しいということを、伝えてもらえないでしょうか?
という内容でした。
どうしてそれをA子さんに直接伝えないのか、私にはとても不思議だったんですが
だって、親切な気持ち、優しい気持ちでしてくれていることなのに、傷つけるのは嫌ですし
僕は彼女自身が嫌いというわけではないのです。
ただ、あぁいう、まるで僕を半人前の子供みたいに接せられるのが嫌なだけで…
そうB夫さんは言いました。
笑いながら何気に、私がB夫さんに
「A子さんて、親切すぎて時々、『オカンみたい』って言われることがあるんだよ」
って言ったところ、B夫さんは激しくうなずきながら
「そう、それ!!ほんとオカンみたいなんですよ。」とw
ただ、私はそういうことのパイプになるのは嫌だったので
B夫さんに、そういうことは直接自分でA子さんに伝えてくれ、と返事しました。
ちょっと気まずい空気が流れながらも色々な話をしていたら、B夫さんが突然
そっかぁ、もしかしたら、僕がこうやって貴子さんを経由しようとするのをやめて
直接に自分でA子さんに伝えるってことをしたら
A子さんの僕への接し方もかわるのかも…
なんて言い出したんです。
どうして突然B夫さんがそういうことを言い出したのか、実は今でも謎ですw
結局B夫さんは、上手には自分の気持ちをA子さんに伝えられなかったそうですが、それでも直接彼女に伝えたそうです。
まぁねぇ、善意からの行為を断るのって、結構胸が痛むし難しいよね。
だからこそ、オカンはタチが悪いわけですがw
このことがあって、私も学ばせていただきました。
求めてこない相手に、勝手にこちらから何かをしていくのは時としてとても失礼なことなんだって。
あと、相手をきちんと1人の大人として扱うことの大切さも学ばせていただいた気がします。
相手のためであろうと、よかれと思っていようと、
相手の同意を得ずに勝手に相手の領域に侵襲していくのって、相手にとっては時にありがた迷惑だったり、時にはすごく嫌なことだったりしますからねぇ。
自分にされたらわかるのに、自分がやっているときには、つい善意や好意のつもりで気づけなかったりしますから
常にそこは注意がいるのかもしれません。
善意でコーティングされると…
相手のために〇〇したいって思うのは、言ってみたらあくまでも自分の望みなわけで
でも善意コーティングしてしまうと
・それは相手も望んでいることなの?
・望んでいるとして、それをあなたにして欲しいと望んでいる?
っていう問いを忘れがち。
だからこそ、頼まれていない限りは、基本、まず相手に許可や同意を得るのが礼儀なんじゃないかとも思います。
A子さんには、その後も何度も会う機会がありましたけれど
なんとなく、わざわざ言う話でもないかと思って
B夫さんから相談された内容どころか、相談されたことも伝えませんでした。
A子さんもまた、自分からこの話しを私にはしてきませんでしたので
私から彼女にこの件について何か聞くこともしませんでした。
話したくなったり、聞いてほしくなったら、A子さんの方から言ってくるでしょうからね。
例えば、どんな病気にも効く、素晴らしい万能薬があったとしても
それを誰かの口に無理やりいれてあげることまではできても
最後その人が飲み込まない限り、その万能薬は何も働きをできません。
やっぱり飲み込むのは、本人にしかできない。
準備ができていない相手を無理やり動かそうとしても無理なんですよね。
ただ、よかれと思って自分がやっていることが、実はそういうことなんだって自分で気づくのって
すごく難しいことだなとも思いますが。
後日談
この話には後日談があって
この時から3年ほどたったころ、A子さんと食事していた時、なにげにA子さんが
B夫さんから、オカンのような態度で接してくるのはやめてほしいって言われたの。
そんな態度をしていたつもりは全くなかったから、言われたときは結構ショックだったけれど
みんなから私はオカンっぽいって言われていたのは、そういうことだったんだって気づいてねぇ。
余計にへこんじゃったw
って。
B夫さんの言ったとおり、A子さんを傷つけずに伝えるということは、どうも上手くいかなかったようですが
何年かかかって
A子さんは自分がよかれと思ってしていたことが、B夫さんを一人の大人として尊重していなかったことに気づいたそうです。
結局A子さんとB夫さんは、お付き合いするということにもならず、自然消滅的に、会うこともなくなっていったそうです。
特に男女のことって、相手がどんなに美人だろうがイケメンだろうが、相性ってありますからねぇ。
あれからかなりの年月がたった今、A子さんは
昔彼女に感じたような、防衛の匂いをふりまきながら優しくするような人ではなくなっています。
不安や怖さから人に優しくする、というところがなくなって
昔よりもっと優しくて、もっと魅力的な女性になっています。
私は、B夫さんから渡された苦い薬を、自分できちんと飲み込んだ彼女を素晴らしいと思います。
そして、そういう女性の友人であれることを、誇りにも思っています。